富永 ちょうどその頃、私が西さんと付き合い始めた。ヤマハとあなたが半導体で初めて作ったLSIの写真を見せくれましたね。
西 ビデオチップですね。当時アメリカのビデオチップの標準はNAPLPS(North
American Presentation Level Protocol)、日本はCAPTAIN(Character And Pattern
Telephone Access Information Network System)で、日本とアメリカで標準のフォーマットが全く違うことに我々は本当に苦しめられました。そこで、両方のフォーマットで使えるチップを作ろうという話になりました。
富永 僕も当時郵政省の参与で、テレマティクスの標準化SG14の日本の代表だったから、NAPLIPSだとかCAPTAINの標準化の話も必要だなと考えていた頃です。
西 あのビデオチップを作った背景は、二つのフォーマットに共通するある重大な欠陥に気づいたことからです。両方ともグラフィックスは表示できるけれど、写真は表示できない。そこで、これで写真が表示できたら良いねという話になりました。写真を表示するには、色を増やせば良かった。次に、写真を1秒間に何枚も表示すればビデオが表示できることも判った。そしてビデオが表示できた時、次に必要なものはオーディオだ、ということで、新しいチップに動画とデジタルオーディオを入れるというシリコンのアーキテクチャをやろうということになりました。
富永 当時は漢字のROMさえ無い時代で、漢字の表示はセンターから図形をプロトコルで送っていて非常に非現実的でした。だから、技術的にはその後20年という時間が必要だったんですよね。当時僕も同じようなことを言っていたら、良くわからないとかそんなもの実現できないとか言われて、クビになりましたね(笑)
西 当時富永先生の研究室にお邪魔した時、研究室の過去の研究成果や論文集を「僕のところでこういう研究をしたんだよ」って見せていただいた中にものすごい僕が驚愕したものが2つありました。1つはローカルネットワークの研究というもので、よく見たらこれはイーサネットと同じではないか!と思いました。もう一つは磁気テープの材料で作った柔らかいディスク。フロッピーディスクと同じです。「イーサネット」と「フロッピーディスク」の発明がイーサネットとフロッピーディスクが登場する遥かに前に、全く誰の力も借りずお金もない早稲田の1研究室で、しかも卒論でなされていたという事に私は驚愕しました。
富永 電電公社から早稲田に来たとき、初めての学生の卒論にやらせたんですよ。
西 その時の富永先生の言葉を私は、はっきりと覚えています。「西君。お金を使わずに、頭を使うんだよ」って。
富永 そんなこと言ったかなあ(笑) |
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西 和彦(にしかずひこ)
早稲田大学在学中に株式会社アスキーを創業、日本発のパソコン専門雑誌「月刊アスキー」を出版した。経営の傍ら、マイクロソフト社ビル・ゲイツ氏らとともに、MS-DOS,
Windowsの開発に従事、新技術担当副社長を務めた。その後、MPEGビデオの開発・標準化に参画した。近年は複数の大学にて研究・教育活動を行っている。またハイエンドオーディオの企画・開発も行っている。情報学博士。 |